先日、ある学生から中間発表用の原稿について相談を受けました。
原稿を作成したものの、
引用したいくつかの論文がどうしても見つからないというのです。
「おそらく孫引きか、あるいは引用元の記憶違いだろう」と思いながら詳しく話を聞いてみると、どうも話がかみ合いません。
そこで、さらに確認を進めていくと、驚くべき事実が判明しました。
その原稿のほとんどがAI(Chat GPT)を使って書かれており、
引用文献もAI(Chat GPT)が自動生成したものだったのです。
AIが生成した文章に引用している文献には、論文タイトル、著者名、学会誌の号やページ番号まで詳細に記載されており、
一見すると実在しそうな文献に見えます。
しかし、Google ScholarやOPACなどの学術データベースを駆使しても、
該当する論文がまったく見当たらないのです。
そこで再度、AIに
「この論文はどこに掲載されているのか?」
と尋ねたところ、驚くべきことに
「架空の論文です」と返答されました。
さらに検証のため、別の研究テーマでAIに論拠を提示させたところ、今回も似たような結果に。
具体的な論文を検索しても見つからず、再度尋ねると
「架空の論文」とのこと。
例えとして実際のやりとりの一つを記載すると、まず、次のような答えが返ってきました。
「「地域医療の現状と地域活性化」(『日本地方自治研究学会年報』)
この論文では、日本の過疎地における医療の充実が地域活性化に果たす役割について詳述されています。
具体的には、医療施設の不足が地域の人口減少を加速させる一方で、適切な医療サービスの提供が定住促進に繋がり、地域社会の持続可能性を高めることが指摘されています。
医療が充実することで、住民の健康が守られるだけでなく、地域に住み続けるための安心感が得られ、それが地域経済の安定にも寄与することが述べられています。」
そこで、次にその論文についての具体的な情報を問うと
「医療資源の地域間格差と過疎地における医療提供体制」というタイトルの論文は、
具体的な著者情報を挙げることができないため、
架空のタイトルとして使用しました。
このタイトルは実際には存在しない可能性が高いです。」
えええっ~!!!そ、そ、そんなに簡単にそう言っちゃいますかぁ???という印象でした。。。。
どうやら、AIは一部の重要な理論的枠組みを扱う
古典的な論文については正確な情報を返すことがあるようですが、
特に近年の具体的な論文については「架空の論文」を生成することが多いようです。
この現象には少々驚きを隠せませんでした。
もちろん、AIを活用することで情報収集やアイデアの整理が効率化されます。
しかし、研究の本質は、先行研究の精読から始まり、問題意識と課題を確立し、独自の視点で研究を深めることにあります。
AIに丸投げしても、真に価値ある研究や論文は完成しません。
特に学術の場では、
引用する文献の正確性が求められるため、AIが生成した情報の裏付けを怠ると、大きなリスクを伴うことになります。
これまでの経験からも、
AIを活用する際には、その限界とリスクを十分に理解し、慎重に取り扱う必要があることを痛感しました。
研究を進めるうえで、まずは信頼できる先行研究を精読し、自身の問題意識と課題を明確にすることが不可欠です。
AIはあくまで補助的なツールとして活用し、研究の基盤は自身で築くよう心掛けてください。